「ボルト一本でも落下した場合、人身事故になることが多い」。

国土交通省の「建設工事公衆災害防止対策要綱」の解説(第14)にある一文です。

結論から言うと、大規模修繕工事で特に気をつけたい事故は資材の落下と足場の倒壊です。国はこの要綱で、足場をシートで覆う、壁つなぎで足場を建物に固定する、強風の日の作業中止の基準を決めておく、といった対策を施工者に求めています。

この記事では、その中身と、管理組合・居住者の皆様が確かめておきたいことをまとめます。

気をつけたいのは住んでいる人や通行人への被害

工事の事故には2つの種類があります。作業員のけがを「労働災害」、工事に関係のない人への被害を「公衆災害」と呼びます。

公衆災害は、工事関係者以外の第三者の生命・身体・財産への危害と迷惑のことです。人のけがだけでなく、家屋や車の破損も含まれます(国土交通省「建設工事公衆災害防止対策要綱の解説」)。

この要綱は令和元年9月2日に国土交通省の告示として定められました(国土交通省 報道発表)。

建築工事等編は、建物の「建築、修繕、模様替又は除却」の工事に適用されます(要綱の解説 第2)。大規模修繕工事は「修繕」なので、対象に入ります。

マンションの工事では、足場のすぐ下を居住者の皆様が出入りし、前の道を人や車が通ります。だからこそ、資材の落下と足場の倒壊への備えが欠かせません。

多いのは資材の落下と強風での足場の倒壊

要綱の解説は、近年の公衆災害のうち死傷災害は「資材の落下」によるものが多いと書いています。特に起きやすいのは、足場などの仮設の組立て・解体と、資材の上げ下ろしのときです。

落ちてくる物は、角材、足場板などの板類、コンクリートのはつりくず(削りくず)、工具類、単管(足場のパイプ)などが多数を占めます(要綱の解説 第24)。

もうひとつが足場の倒壊です。外部足場の倒壊・崩壊は「毎年のように発生」していて、その多くは強風によるものです。

原因として挙げられているのが「壁つなぎ」。足場と建物をつないで倒れないようにする金具です。付け忘れや、作業の邪魔で外したままにしたことが事故につながることが多いとされています(要綱の解説 第23)。

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国が施工者に求めている落下物と倒壊の対策

要綱が施工者に求めている対策のうち、足場まわりの主なものを4つ紹介します。

足場をシートで覆い防護棚を出す

足場は鉄網・帆布・メッシュシートなどで覆います(要綱の解説 第23・第24)。

さらに、工事する部分から水平5m以内などに隣家や人が通る場所があるときは、落下物を受け止める防護棚を設けます。工事する部分の高さが10m以上なら1段以上、20m以上なら2段以上。水平に2m以上張り出し、角度は20度以上と決められています。

足場の途中から斜めに張り出した屋根のようなもの、見たことはありませんか? 現場では”朝顔(あさがお)”と呼ばれています。なお、幅2m以上の防護構台を設けた場合は、最下段の防護棚を省略できます。

壁つなぎと足場の脚元を固める

壁つなぎは、縦横に必要な数をしっかり取り付けます。足場の脚元には、すべりや沈み込みを防ぐ措置をとります。

強風の日は作業を止める基準を決めておく

施工者は着工前に、強風・豪雨・豪雪のときの作業中止の基準と、中止したときの足場や資材の措置を決めておくことになっています。

作業員を守る労働安全衛生規則第522条でも、高さ2m以上の作業は悪天候で危険が予想されるとき作業させてはいけません。要綱の解説によると、この「強風」は10分間の平均風速が毎秒10m以上の風です(要綱の解説 第11)。

組立てと解体の日は人の通り道を守る

足場の設置・解体時の上げ下ろしなど落下物の危険があるときは、交通誘導警備員を置いて通行を規制するなどの措置をとります。上げ下ろしは、原則として人が通る場所を避けて作業場の中で行います。

発注者と施工者は、やむを得ず通行を制限するとき、原則として幅0.90m以上(高齢者や車椅子の通行が想定されない場合は0.75m以上)・有効高さ2.1m以上の歩行者用通路を確保します。

足場の点検は令和5年から点検者の名前が残るようになった

作業員の安全のルールも厳しくなっています。

改正労働安全衛生規則で、足場を点検する事業者などはあらかじめ点検者を指名し、組立て・一部解体・変更の後の点検では点検者の氏名を記録・保存することになりました。令和5年10月1日から順次施行されています(厚生労働省リーフレット)。点検した人の名前が、記録として残るようになったわけです。

背景には、建設業で今も年間100人程度の労働者が墜落・転落で亡くなっていることがあります(厚生労働省)。

足場の点検は誰が担当するのか。説明会で聞いてみてもよい質問です。

管理組合と居住者にできること

要綱は施工者だけでなく発注者にも守ることを求めています。マンションの大規模修繕工事では、多くの場合、工事を契約する管理組合がこの立場です。ただし民間工事では、発注者のすることを契約で施工者が代わりに行う例も多いとされています。

発注者には、要綱が守られる工期を設定することや、対策の経費を確保することが求められています。解説には「突貫工事的要素を含んだ現場に事故が発生する危険性が大きく」とあり、経費の無理な負担の押し付けは「ときとして公衆災害の発生の原因にもなりかねない」とまで書かれているほどです(要綱の解説 第7・第8)。

着工前の説明会では、次の3つを施工会社に聞いておくと安心です。

・強風の日の作業中止の基準と、そのとき足場をどうするか
・足場の組立て・解体の日程と、その日の出入口や通路
・事故が起きたときの連絡先と連絡の流れ

要綱では、発注者と施工者が着工前に警察・消防・病院などの連絡先をはっきりさせておくことになっています。

居住者の皆様にお願いしたいのは、お知らせチラシや工事掲示板で足場の組立て・解体の日を確かめておくことです。その日は誘導員の指示に従い、指定された通路を通ってください。囲いの中には入らないようお願いします。

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余談 要綱にはドローンの落下対策も入りました

この要綱は平成5年につくられ、令和元年に見直されたものです。

見直しのポイントには「ドローン等の活用推進に備えた、落下事故対策等の追加」も入っています。足場の上だけでなく、空からの落下物まで想定に入っているわけです(^^;)

落下物と足場の倒壊は、シート・防護棚・壁つなぎ・中止基準という決まった対策で防ぐもの。説明会で中身を聞いておけば、足場がある間の不安はだいぶ減るはずです。

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