大規模修繕工事の見積書を手に、「この金額、今年の経費にまとめて入れられるのかな?」と電卓をたたいている賃貸マンションのオーナーさん向けの記事です。
先に結論です。工事の費用は、修繕費ならその年の経費に、資本的支出(しほんてきししゅつ)なら減価償却で何年にも分けて経費にします。どちらになるかは工事の名前ではなく中身で決まり、国税庁が判定の順番を示しています(国税庁 No.1379「修繕費とならないものの判定」)。
この記事では、その順番を5つのステップに分けて見ていきます。
修繕費か資本的支出かで経費になる年が変わる
国税庁の説明では、貸している建物の修繕費のうち、通常の維持管理や修理のためのものは必要経費になります。
一方、建物の使用可能期間を延ばしたり、価値を高めたりする部分は資本的支出です。こちらは減価償却で、各年に分けて経費にします(国税庁 No.1379)。
同じ1,000万円の工事でも、どちらになるかで今年の経費の額が大きく変わるわけです。
判定の5ステップ
国税庁 No.1379 のフロー図をもとに、確かめる順番を5つに分けました。法人向けの説明は No.5402 にあります。
ステップ①:貸している建物かを確かめる
国税庁 No.1379 の説明は、貸付けや事業に使っている建物の話です。賃貸マンションやテナントビルのオーナーさんは、ここに当てはまります。
ステップ②:3年以内の周期か20万円未満かを見る
おおむね3年以内の周期で行う修理か、一つの修理の金額が20万円未満なら、修繕費として申告すればその年の経費にできます(国税庁 No.1379)。法人の場合、3年以内の周期は過去の実績などから明らかな場合です(国税庁 No.5402)。
ここでいう「一つの修理」について、国税庁の法人税の説明では「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良など」と書かれています(国税庁 No.5402)。
周期のほうは、分譲マンション向けの国のガイドラインで外壁塗装の周期の例が12~15年です(国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」)。12年ごとの工事を「3年周期の修理」と呼ぶのは、さすがに無理がありますね。
ステップ③:明らかな資本的支出を分ける
ステップ②に当たらないときは、価値を高めるものかどうかを見ます。国税庁は、原則として資本的支出になる例を3つ挙げています(国税庁 No.1379)。
・避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分
・用途変更のための模様替えなど、改造や改装の費用
・部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えたとき、通常の取替えの金額を超える部分
反対に、通常の維持管理や原状回復のための部分は修繕費です(国税庁 No.1379、国税庁 No.5402)。大規模修繕工事の見積書でも、「元に戻す」工事と「付け加える・性能を上げる」工事が混ざっていないかを見ることになります。
ステップ④:分からない部分は60万円と10%で見る
修繕費か資本的支出か明らかでない金額があるときは、次のどちらかに当たれば修繕費にできます(国税庁 No.1379、国税庁 No.5402)。
・その金額が60万円未満
・建物の前年末(法人は前事業年度の終わり)の取得価額のおおむね10%以下
たとえば取得価額3億円の建物なら(仮の数字です)、10%は3,000万円です。明らかでない金額がそれ以下かどうかを見ます。
ステップ⑤:残りは区分の特例で分ける
明らかでない金額が60万円・10%のどちらにも当たらないときは、特例で修繕費と資本的支出に分けることが認められています。個人は所得税基本通達37-14の特例です(国税庁 No.1379)。
法人の場合は、支出額の30%と前事業年度末の取得価額の10%のうち少ない方を修繕費、残りを資本的支出とする処理を継続して行っていれば認められます(国税庁 No.5402)。
資本的支出はもとの資産と同じ耐用年数で償却する
資本的支出になった部分は、もとの資産と種類・耐用年数が同じ資産を新しく取得したものとして減価償却します(国税庁 No.2107「資本的支出を行った場合の減価償却」)。平成19年4月1日以後の資本的支出の原則です。
鉄筋コンクリート造の住宅用の建物本体なら、法定耐用年数は47年、事務所用なら50年です。給排水設備など建物附属設備に当たる部分は、その設備の耐用年数(給排水・衛生設備は15年)になります(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。
所得税の説明では、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は、旧定額法か定額法だけです(国税庁 No.2100「減価償却のあらまし」)。毎年ほぼ同じ額を、長い年月をかけて経費にしていくイメージです。
1室を貸している人は積立金の扱いを見る
分譲マンションの1室を貸しているオーナーさんは、工事代金を直接払うのではなく、管理組合に修繕積立金を払っていますよね。
国税庁の質疑応答事例では、この修繕積立金は原則として、実際に修繕が終わった年の経費とされています。ただし、マンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従って払っていて、次の4つをすべて満たせば、払った年の経費にしてよいと回答しています(国税庁「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」)。
①区分所有者に支払義務がある
②管理組合に返還義務がない
③将来の修繕のためだけに使い、流用しない
④長期修繕計画にもとづき、持分に応じて合理的に計算されている
この回答は照会の事実関係を前提とした一般的なもので、異なる課税関係になることがある、と国税庁は注意書きをしています。
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判定の流れをおさらい
・修繕費ならその年の経費、資本的支出なら減価償却で分けて経費
・判定は名目ではなく中身で、国税庁の順番に沿って進める
・明らかでない部分は60万円未満か取得価額の約10%以下なら修繕費
・資本的支出は、もとの資産と同じ耐用年数で償却(RC造の住宅用の建物本体なら47年)
・1室を貸している人の修繕積立金は、原則は修繕が終わった年の経費
実際の判定は、税理士さんや税務署に相談して決めることになります。そのとき、見積書が工事の項目ごとに分かれていると話が早いですよ(^^)
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