先に答えを言います。

国土交通省の令和3年度の実態調査では、マンションの大規模修繕工事の金額は1戸あたり100万~125万円の帯がいちばん多く、1回目の工事だと中央値は110.2万円/戸でした。

ただ、この数字を手元の見積書とそのまま見比べると、たいてい話が合いません。国の調査でいう「工事金額」には、消費税も共通仮設費も入っていないからです。

そこでこの記事では、相場の数字そのものと、見積書をその数字に合わせて比べる手順を、順番に見ていきます。

総額で比べても相場は見えない

金額の話は、総額から入ると迷子になります。

国土交通省の令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査(報告書)の13ページを見ると、1回目の大規模修繕工事の総額は中央値が8,665万円。ただし下位25%値が約4,944万円、上位25%値が約1億9,825万円で、4倍ほどの開きがあります。30戸のマンションと300戸のマンションが同じ表に並んでいるので、当然といえば当然です。

だから相場は、総額を戸数で割った「1戸あたり」で見ます。国の調査もこの形で集計していますし、規模の違うマンション同士でも比較が成り立ちます。

報告書でいう床面積(延べ床面積)が分かるなら「1㎡あたり」でも見られます。こちらは報告書の15ページで、1.0万~1.5万円/㎡の帯が33.4%と最も多い結果でした。

国の調査でみる1戸あたりの金額

数字の出どころは、国土交通省が令和3年度に行ったマンション大規模修繕工事に関する実態調査(概要)です。施工会社や設計コンサルタントなど200社から818件の工事事例を集めて集計したもので、管理組合が自分たちの工事の位置づけを確かめられるように作られています。

ひとつ先に押さえておきたいのが、調査の時点です。アンケートの実施は令和3年7月~10月。答えているのは「直近3年間に受注実績のある企業」です(報告書3ページ)。つまり数字は令和3年ごろまでの工事のもので、その後の資材費や人件費の動きは入っていません。

そのうえで、戸あたり工事金額の分布を見てみます(報告書14ページ、818件)。

・25万円/戸以下 … 2.1%
・~50万円/戸 … 3.5%
・~75万円/戸 … 9.5%
・~100万円/戸 … 24.7%
・~125万円/戸 … 27.0%
・~150万円/戸 … 17.4%
・~175万円/戸 … 6.8%
・~200万円/戸 … 2.3%
・200万円/戸超 … 2.8%
・無回答 … 3.8%

75万~150万円/戸の3つの帯を足すと69.1%。ざっくり7割がこの範囲に収まっていると考えると、感覚がつかみやすくなります。

工事の回数別に中央値と四分位を見ると、こうです(単位は万円/戸)。

・1回目(331件) … 下位25% 90.9/中央値 110.2/上位25% 134.0
・2回目(194件) … 下位25% 87.8/中央値 106.1/上位25% 129.8
・3回目以上(242件) … 下位25% 76.8/中央値 97.0/上位25% 125.7

回数が増えるほど中央値がじわりと下がっています。ただ調査は理由まで書いていないので、「2回目は安くなる」と決めつけないほうが安全です。

なお平均値は1回目で151.6万円/戸と、中央値よりかなり高く出ます。金額の大きい事例に引っ張られるためで、お住まいのマンションの目安にするなら中央値のほうが向いています。

余談ですが、報告書の48ページには20階以上の超高層マンション45件を抜き出した比較もあって、戸あたりでは大きな差がないという結果でした。タワーだから桁違い、というわけでもないんですね(^^)

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相場の金額に入っていないもの

ここがいちばんの落とし穴です。

この調査の報告書の4ページに、集計した「工事金額」の定義が書かれています。かみ砕くと、こういう中身です。

・直接工事費(ただし共通仮設費は含まない
・諸経費①(現場管理費・一般管理費・法定福利費など)
・諸経費②(大規模修繕瑕疵保険の保険料)
消費税相当額は含まない
・耐震改修工事は対象外

つまり相場の110万円/戸は、税抜きで、しかも共通仮設費を抜いた金額です。税込みの総額が表紙に載っている見積書なら、そのまま並べれば見積書のほうが高く見えて当たり前ということになります。

「うちの見積、相場より高いんじゃないか」と感じたとき、消費税と共通仮設費の分だけでも差が出ます。まずはそこを揃えてから考えたいところです。

工事費の中身は外壁と防水と足場

内訳も同じ調査の概要で公表されています。総工事金額に占める割合は、建築系工事が60.3%、仮設工事が22.8%、諸経費①②が10.3%でした(報告書12ページの注記のとおり、建築系工事を実施していない事例を除いた集計です)。

そして建築系工事の中身は、外壁関係(外壁塗装・外壁タイル・シーリング工事)が49.4%、防水関係(屋根防水と床防水)が32.0%。あくまで建築系の「中での」割合で、総額の半分が外壁という意味ではありません。ここは読み違えやすいので注意してください。

注目したいのは仮設工事の22.8%です。足場のような、建物そのものには残らない部分に工事費の2割強が使われている計算になります。

見積書で足場の金額を見ると高く感じるかもしれません。比べるなら足場だけを取り出さず、仮設工事の一式をまとめて、次の手順①②で揃えた金額(税抜きで共通仮設費を除いた額)で割ってみてください。共通仮設費は分子からも外してください。その割合を22.8%と並べると、位置づけが見えてきます。

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見積書を相場と比べる4つの手順

ここまでの話を、実際の作業に落とします。理事会で配る資料を作るつもりで、順番にやってみてください。

① 税抜きの工事金額に直す
見積書の総額から消費税を外します。調査の数字が税抜きなので、ここを揃えないと比較が始まりません。

② 調査の対象外を引く
共通仮設費と耐震改修工事の費用は、調査の「工事金額」に入っていません。見積書に項目があるなら、いったん外して脇に置きます。足場などの仮設工事は調査の金額に含まれているので、こちらは引かないでください。

③ 総戸数で割る
残った金額を戸数で割れば、お住まいのマンションの「1戸あたり」が出ます。延べ床面積が分かるなら、㎡あたりも出しておくと心強いです。

④ 同じ回数の中央値と並べる
1回目なら110.2万円/戸、2回目なら106.1万円/戸、3回目以上なら97.0万円/戸。下位25%値と上位25%値の間(1回目なら90.9万~134.0万円/戸)に入っていれば、少なくとも令和3年度の調査では真ん中あたりに収まっている、と読めます。㎡あたりで見るなら、最も件数が多かった1.0万~1.5万円/㎡の帯が目安です。

報告書には戸数規模を9つに分けた集計(20戸以下から301戸以上まで、33~41ページ)も載っているので、より近い条件で確かめたい方はそちらもどうぞ。ただし区分によっては事例数が10件を切るものもあるので、数字の重みは差し引いて見てください。

相場は物差しであって正解ではありません

もう一度まとめます。

令和3年度の調査では、大規模修繕工事の費用は1戸あたり100万~125万円の帯が最も多く、1回目の中央値は110.2万円/戸。7割が75万~150万円/戸に収まります。ただしこれは税抜きかつ共通仮設費を除いた金額なので、見積書と比べるときは条件を揃えるのが先です。

そして報告書自身が「工事金額はマンションの規模や劣化状況等で異なります」と断っています。相場から外れていることは、高いことの証明にはなりません。外れているなら、なぜ外れているのかを見積書の項目で説明できるか。管理組合が確かめたいのはそこです。

金額の根拠がはっきりしていれば、総会での説明もぐっと楽になります。

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