こんにちは。
「大規模修繕工事」と「大規模の修繕」。この2つ、ほとんど同じ言葉に見えますよね。ところが建築基準法の世界では、まったく別のものを指します。
先に結論をお伝えします。マンションで周期的に行う、いわゆる大規模修繕工事――足場を組んで、洗って、コンクリートを直して、シーリングを打ち替えて、塗って、防水する――について、国土交通省の資料は「大規模の修繕又は模様替えにあたることは少ない」としています。つまり、建築確認申請までは通常いりません(ただし昇降機の取替え等は別、と但し書きが付きます)。
一方で、同じタイミングで検討されがちな工事のなかには確認申請が絡んでくるものもあります。その線引きの考え方と、注意したい5つの工事を順番に見ていきましょう。
建築基準法でいう「修繕」は思っているより狭い
まずは言葉の整理から。ここがわかると、あとは全部つながります。
国土交通省の資料では、修繕をこう説明しています。
「修繕とは、経年劣化した建築物の部分を、既存のものと概ね同じ位置に概ね同じ材料、形状、寸法のものを用いて原状回復を図ることをいいます」(国土交通省「マンション改修に関する建築基準関係規定上の手続き」)
そのうえで、確認申請の対象になる「大規模の修繕」は、こう定義されています。
「大規模の修繕とは、修繕する建築物の部分のうち、主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は階段)の一種以上を、過半(1/2超)にわたり修繕することをいいます」(出典は同じ資料)
ポイントは「主要構造部」を「過半」という2つの条件です。建物を支えている壁・柱・床・はり・屋根・階段のどれかを、半分を超えて手を入れる。そこまでやって初めて、法律上の「大規模の修繕」になります。
工事の総額が何千万円かかろうと、足場が建物をぐるりと囲もうと、そこは関係ありません。基準は金額でも見た目の規模でもなく、「構造の主役をどれだけ触ったか」なんですね。
たとえば外壁の塗り替え。壁の表面を塗り直しているだけで、壁そのものを半分以上つくり直しているわけではありません。だから法律のいう「大規模の修繕」には届かない、という理屈になります。
外壁の塗装や防水では原則いりません
では、いつもの大規模修繕工事はどうなのか。国土交通省の同じ資料に、答えがそのまま書いてあります。
「大規模修繕等の計画修繕に伴う改修工事については、大規模の修繕又は模様替えにあたることは少ないと考えられますが(ただし、昇降機を取り替える場合等については建築設備としての確認申請を必要とします。)」(国土交通省「マンション改修に関する建築基準関係規定上の手続き」)
計画修繕、つまり長期修繕計画に沿って周期的に行う工事は、あたることが少ない。カッコの中の昇降機については、あとでまた出てきます。
外壁については、さらにはっきりした通知があります。令和6年2月8日付けで国土交通省住宅局建築指導課長が各都道府県に出した技術的助言(国住指第355号)です。
「外壁の外装材のみの改修等を行う行為、又は外壁の内側から断熱改修等を行う行為は、法第2条第14号に規定する大規模の修繕及び同条第15号に規定する大規模の模様替には該当しないものと取り扱って差支えない」(国土交通省「屋根及び外壁の改修に関する建築基準法上の取扱いについて」(令和6年2月8日 国住指第355号))
同じ通知では、既存の外壁に新しい仕上材をかぶせる工法も該当しない、屋根ふき材だけの改修やカバー工法も該当しない、と整理されています。
ただし「外壁の全部」まで行くと話が変わります
この通知には、続きがあります。
「ただし、外壁の外装材のみの改修等を行う行為であったとしても、当該行為が外壁の全てを改修することに該当する場合は、この限りでない」
通知に添えられた参考資料の注意書きでは、外装材の改修で外壁の全ての材を改修することになる場合、その改修部分の総面積が過半であれば大規模の修繕・模様替に該当する、とされています(屋根の場合は総水平投影面積で見ます)(国住指第355号 参考資料「屋根及び外壁の改修に関する建築基準法上の取扱いについて」)。
また、参考資料に載っている図はいずれも「あくまでも例であり、実情に応じて判断すること」という前置き付き。最後は建物ごとの個別判断になる、ということですね。ここは設計者や施工会社に、早い段階で確認しておきたいところです。
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大規模修繕工事の流れ
確認申請を検討したい5つの工事
ここからが本題です。大規模修繕のタイミングで一緒に検討されることが多く、しかも確認申請が絡んでくる工事を、国土交通省の資料から5つ挙げます。理事会で「ついでにこれもやろう」という話が出たときの、チェックリストとして使ってみてください。
① エレベーターの取替え
さきほどのカッコ書きです。「昇降機を取り替える場合等については建築設備としての確認申請を必要とします」とあります。
塗装や防水は要らないのに、エレベーターだけは要る。見落とされがちなところです。長期修繕計画にエレベーターの更新が入っている年度は、要注意ですね。
② エレベーターの新設
既存のマンションにエレベーターを付ける場合。資料では、共用部分の増築として確認申請が必要とされているうえに、こうも書かれています。
エレベーターの設置工事についての建築確認申請に加えて、設置するエレベーターの建築や構造等の適法性について建築設備としての確認申請が必要、という説明です。
つまり2種類。バリアフリー化の相談でよく出るテーマですが、手続きは軽くありません。
③ 居室の増築・バルコニーの屋内化
住戸を広げる、バルコニーをサンルームのように囲う。これらは増築にあたり、確認申請が必要とされています。
しかもこの資料では、既存バルコニーが避難上有効な設備として直通階段の代わりの役割を果たしていた共同住宅では、屋内化に伴って避難上の基準を満たす措置が必要になる、と注意が添えられています。「窓をつけるだけ」で済まない場合がある、ということです。
④ 集会所などの新築・自走式立体駐車場
集会所・コミュニティーセンターといった共用付属施設の新築、自走式立体駐車場の新築も、確認申請が必要な工事として挙げられています。
なお、防火・準防火地域以外で、増築・改築・移転に係る部分の延べ面積の合計が10㎡以下なら確認申請は不要、という例外も同じ資料に書かれています。小さな物置や駐輪場を検討するときの目安になりますね。
⑤ 耐震補強
国土交通省の資料は、耐震補強を確認申請が必要になることの多い工事として挙げています。
ただし逃げ道もあります。耐震診断の結果を踏まえて耐震改修を行う建築物の所有者は、耐震改修促進法にもとづいて耐震改修計画について所管行政庁の認定を受けることができ、この認定手続きを行うと建築確認の手続きが不要になるとのこと。認定を受けると既存不適格建築物に係る制限の緩和なども受けられる、と説明されています。
なお、住戸の2戸1戸化や共用部分の改造、耐震補強といった「模様替えにあたる工事」については、主要構造部を過半にわたり大規模に模様替えをする場合に確認申請が必要、という整理です。ここでも過半かどうかが効いてきます。
申請が必要になると建物ぜんぶが審査される
このうち、増築・新築や大規模の模様替えにあたる工事(②~⑤)で建築確認申請をするときに、知っておいてほしいことがあります。④の集会所などは資料上「新築」の区分ですが、既存建築物のある敷地内に別棟で建てる場合は敷地単位では増築にあたる、と同じ資料で整理されています。
「増築、大規模な模様替え等に伴い建築確認申請をする場合は、当該部分のみならず、建物全体について建築基準関係規定に適合しているかどうかの審査を受けることになります」
工事する場所だけを見てもらえるわけではないんですね。そして高経年のマンションでは、建てたあとの法改正によって現行規定に合わない部分――いわゆる既存不適格――が出てくることも。
資料では、構造関係(帯筋比、耐震性等)、防火関係(高層区画・竪穴区画、避難施設、排煙設備、内装制限、非常用昇降機・非常用進入口・非常用照明等)が例に挙げられています。
もちろん救済もあります。既存不適格建築物に対する制限の緩和という措置が設けられていて、範囲に該当すれば適用が除外される規定も。全体計画を特定行政庁が認定すれば段階的に改修工事を進められる仕組み(建築基準法第86条の8)も、同じ資料で紹介されていました。
なお、①のエレベーター取替えのように建築設備としての確認申請だけで済む場合は、この全体審査の話とは別です。
とはいえ、②~⑤に当てはまるなら、調査や設計にそれなりの時間がかかるのは間違いありません。「工事の直前に判明」がいちばん困るパターンですね。
参考: 対象になる建物と2025年の法改正
大規模の修繕・模様替で確認申請の対象になるのは、建築基準法第6条第1項の1号または2号の建築物です。高知市の案内では、1号を「特殊建築物で200㎡を超えるもの」、2号を「階数2以上又は延べ面積200㎡を超えるもの」と説明しています(高知市「確認申請関係(大規模の修繕・模様替)」)。
令和7年(2025年)4月1日施行の改正建築基準法についても一言。こちらは「新2号建築物」=2階建て住宅等についての改正で、岡山県の解説によると「都市計画区域内外を問わず2階建て住宅等の新2号建築物について大規模の修繕・模様替を行う場合は、建築確認及び検査が必要になります」とされています(岡山県「令和7年4月1日施行の改正建築基準法・改正建築物省エネ法について」)。先ほどの高知市の案内でも「令和7年4月1日施行の法改正により、木造住宅などの旧4号建築物が新2号建築物になり確認申請が必要となる場合があります」と説明されています。
いずれにしても、そもそも「大規模の修繕」に当たらない工事は、確認申請の対象にはなりません。判断の出発点は、この記事の最初に見た「主要構造部の過半かどうか」です。
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大規模修繕工事とは
ここまでの整理とひとつの余談
・法律上の「大規模の修繕」は、主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段)の一種以上を過半にわたり修繕すること
・国土交通省の資料では、計画修繕に伴う改修工事はそれにあたることは少ないとされている
・外壁の外装材のみの改修や、仕上材をかぶせる工法は該当しない扱いで差支えない(ただし外壁の全てを改修し総面積が過半なら該当)
・確認申請の検討が要るのは①エレベーターの取替え(建築設備としての確認申請) ②エレベーターの新設 ③居室の増築・バルコニーの屋内化 ④集会所などの新築・自走式立体駐車場 ⑤耐震補強(主要構造部を過半にわたり模様替えする場合。所管行政庁の認定を受ければ建築確認は不要)
・②~⑤で申請すると建物全体が審査対象になり、既存不適格への対応が必要になることがある
最後に余談をひとつ。法律には「修繕」とよく似た「模様替え」という言葉もあります。違いは目的で、修繕が原状回復を図ることであるのに対し、模様替えは「原状回復を目的とせずに性能の向上を図ること」と説明されています。
同じ壁を触っていても、元に戻すなら修繕、良くするなら模様替え。法律って、面白いところで線を引きますね(^^)
長期修繕計画を開いて、次の工事にエレベーター更新や耐震補強が入っていないか、ぜひ一度確かめてみてください。入っていたら、早めに専門家へ相談する価値があります。
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