「責任施工方式なら、まとめて任せられるぶん安く済むらしい」
修繕委員会でこういう話が出ることがあります。半分は当たっていて、半分はちょっと違います。
当たっているのは、設計や工事監理を別の専門家に頼まない分、その専門家に払う費用が発生しないところ。違うのは、そこから「じゃあ工事費そのものも安いんだな」と読んでしまうところです。国の資料に、そこまでは書かれていません。
この記事では、責任施工方式とは何なのか、設計監理方式とどこが違うのか、そして自分たちのマンションはどちらで進めればいいのかを、国土交通省の資料をたどりながら整理します。数字も評価も、国が公表している文書に書いてある範囲だけで書きます。
先に結論を言うと、国の資料は設計監理方式を「望ましい方式」としています。ただ、どちらを選んでも最後の分かれ目になるのは、工事の中身と費用の内訳が管理組合から見えるかどうかでした。
なお株式会社アストは、調査・診断・設計・施工まで一貫して対応する会社です(トップページに掲載のとおり)。施工する側の会社が書く記事なので、国の資料が挙げている責任施工方式の弱点も省かずに書きます。
責任施工方式は調査から工事までを1社に任せる方式
まず言葉の意味から。
国土交通省のマンション改修マニュアル(令和8年3月改訂)は、改修工事を支える専門家の関わり方を大きく2つに分けています。調査診断や設計を担う人と施工する人を分けるのが「設計監理方式」、調査診断から施工までのすべてを一者に任せるのが「責任施工方式(設計施工一括方式)」です。
責任施工方式のほうを、マニュアルはこう説明しています。
・建築士を有する施工会社(設計・施工・監理部門を有する建設会社や管理会社等)を選定する
・調査診断・改修設計・資金計画から工事の実施までのすべてを請け負わせる
つまり、建物を診るのも、直す内容を決めるのも、実際に工事をするのも同じ会社。管理組合から見ると窓口が1つになる形です。
ちなみにマニュアルは、この2つのほかにも「CM方式(コンストラクションマネジメント方式)」や「ECI方式(アーリー・コントラクター・インボルブメント方式)」といった関わり方を紹介しています。発注方式は2択ではないんですね(^^) ただ、マニュアルが「大別すると」として最初に挙げているのは、先の2つです。
設計監理方式との違いは分けるか分けないか
では、もう一方の設計監理方式はどういう形か。
同じマニュアルによると、建築士を有する建築設計事務所等を選び、調査診断・改修設計・施工会社の選定・資金計画といった業務を委託し、工事が始まったら工事監理を委託する方式です。工事をする会社は、別に選びます。なおマニュアルのいう「建築設計事務所等」には、建設会社や管理会社も含まれます。
違いを3つに分けると、こうなります。
・誰が工事内容を組み立てるか… 設計監理方式は設計事務所等、責任施工方式は施工会社
・誰が工事をチェックするか… 設計監理方式は管理組合側に立つ監理者、責任施工方式は施工会社自身の監理部門
・費用の出方… 設計監理方式は工事費のほかに調査・設計費用等が発生、責任施工方式はその専門家費用を必要としない
マニュアルは設計監理方式のメリットとして、診断から工事監理までを専門家が一貫して支援することで必要とされる工事を客観的に見極められること、競争入札等の競争原理を導入して施工会社を選定できること、管理組合の立場に立った工事監理が行われることを挙げています。
一方の責任施工方式にあるのは、施工性への配慮という利点。マニュアルの言葉では、マンションの事情に精通した信頼できる施工会社がいる場合に採用されることがあり、初期の段階から施工性(工事中の仮設計画や工事実施手順等)に配慮した検討ができる、という書き方です。足場の掛け方や工事の順番といった、現場で困りやすいところを最初から織り込めるわけですね。
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責任施工方式で気をつけたい2つのこと
ここは正直に書きます。マニュアルは責任施工方式について、注意点を2つ挙げています。
1つめは、設計と施工が一体化するため、工事内容と費用内訳の関係が不明瞭となりやすいこと。工事の内容を決めた会社がそのまま見積を出すので、なぜその工事が必要でその金額になるのか、外から検証しづらくなります。
2つめは、技術的知識が施工会社のみに偏るため、正しい判断で必要な工事内容を定めるという点で問題となる場合があること。判断材料を持っているのが片側だけ、という状態ですね。
どちらも「なりやすい」「場合がある」という書き方で、必ずそうなると決めつけてはいません。そのうえでマニュアルは、この方式を採用する場合の対処もはっきり書いています。検討結果の適切な情報開示と、検討内容ごとの費用内訳の提示を受けることです。
言い換えると、管理組合の側から「どこをどう調べて、なぜこの工事が要ると判断したのか」「その費用の内訳はどうなっているのか」を出させれば、この方式の弱いところはかなり埋まります。任せきりにしないための、具体的な注文の付け方だと思ってください。
もう1つ、誤解されやすい点を。責任施工方式=最初から1社に決め打ち、ではありません。マニュアルは、あらかじめ特定の1社に限定せずに、一定の条件を定めて複数の施工会社の候補から選定することも考えられる、と書いています。1社に任せる方式であっても、その1社を複数から選ぶことはできるわけです。
国の資料が望ましいと書いているのは設計監理方式
ここは触れずに済ませたくなるところですが、書きます。
先ほどのマニュアルは、設計監理方式について「工事内容・工事費の透明性の確保、責任所在の明確さなどの点で望ましい方式であるといえます」と評価しています。責任施工方式にはこの表現がありません。国の資料としてどちらを推しているかは、はっきりしています。
ただし、設計監理方式なら安心、という話でもありません。国土交通省は令和5年4月3日付けの「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化について(通知)」で、近年は設計コンサルタントが管理組合をサポートする設計・監理方式による工事が多く実施されていると述べたうえで、こう注意を促しています。
「この『設計・監理方式』を管理組合が採用する場合、設計コンサルタントが利益相反行為を起こさない中立的な立場を保つ形で施工会社の選定が公正に行われるよう留意する必要があります」
同じ通知は冒頭でも、発注等に際しては事業者の選定に係る意思決定の透明性確保や利益相反等に注意して、適正に行われる必要があるとしています。マニュアルのほうにも、専門家が施工業者の選定支援を行う場合は、その専門家と施工業者との関係について区分所有者に不信感をもたれないよう透明性を確保するように、という記述があります。
整理すると、方式そのものに優劣の話はありますが、どちらを選んでも「透明性をどう確保するか」という宿題は残るということです。責任施工方式なら費用内訳の開示、設計監理方式ならコンサルタントの中立性。見る場所が違うだけで、やることは似ています。
どちらを選ぶかの判断材料
では、うちはどっちなのか。
マニュアルの答えは、検討・計画する改修内容や、発注者(管理組合)の体制・資金面等によって採用する方式を検討する必要がある、というものです。規模が何戸以上ならこちら、といった線引きは書かれていません。
そのうえで、同じマニュアルが「専門家等の選定に当たって考慮する」として挙げている項目が、そのまま判断材料になります。
・提案力… 課題に対する提案の的確性・実現性
・技術力… 過去の業務実績、保有技術者数・有資格者数
・体制… 業務体制、業務の基本スタンス、瑕疵があった場合の対応
・会社の概要… 資本金、年間工事受注額、経営の安定性(※責任施工方式の場合はこれも考慮するように、と明記されています)
4つめが責任施工方式だけに追加されているのは、なるほどという感じがします。調査から工事、そして瑕疵があったときの対応まで1社に背負ってもらう以上、その会社が続く会社かどうかが効いてくるからでしょう。
選び方の手続きにも代表的な型があります。複数の候補に見積を出してもらい、総額の大小だけでなく内容を比べて決める見積合わせ方式と、推薦などで特定の1者から見積を取って精査する特命随意契約方式です。後者は手続きが早く信頼できる相手に一任できる反面、マニュアルは、提示された見積金額の適正性を判断することが難しく、特に発注者に専門知識がない場合は提案内容の確認や評価が難しくなる可能性がある、と釘を刺しています。
そして、これがいちばん大事なところ。マニュアルは方式の一覧を示す前に、こう念を押しています。専門家等はあくまで管理組合のパートナーであり、改修工事の実施に係る意思決定の主体は管理組合であるという認識が非常に重要となる、と。どの方式を選んでも、決めるのは管理組合です。
迷ったときに使える公的な相談窓口
自分たちだけで判断しきれないときのために、国が案内している窓口を置いておきます。先ほどの令和5年の通知に載っているものです(電話番号と受付時間は、各団体の現在のご案内に合わせています)。
・(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「リフォーム見積チェックサービス」… 電話 03-3556-5147(10:00~17:00、土日祝休日・年末年始を除く)
・(公財)マンション管理センター… 建物・設備の維持管理のご相談 03-3222-1519(月曜日~金曜日の9時30分~17時、祝日および年末・年始休みを除く)
前者の見積チェックサービスは無料ですが、対象になるのは着工前・契約前の見積書1~2通で、設計・監理に関するものは対象外と案内されています。万能の鑑定ではない、というところは押さえたうえで使ってください。
マンション改修マニュアルのほうでも、見積書のチェックや施工会社の選定に当たって第三者機関のサポートを活用することが考えられるとして、この見積チェックサービスが紹介されています。責任施工方式で1社と話を進めているときほど、こういう外の目は効きます。
決める前に確かめておきたいこと
お住まいのマンション、発注方式の話はもう出ていますか。
もし「管理会社さんに言われた方式でなんとなく」という状態なら、次の理事会で1つだけ確かめてみてください。その方式を選んだ理由と、工事内容と費用内訳がどこまで開示されるのかです。責任施工方式でも設計監理方式でも、国の資料が求めているのは結局そこでした。
方式の名前より、中身が見えるかどうか。ここさえ押さえておけば、どちらを選んでも大きく外しません。
▼ 発注方式のご相談・お見積りは無料です
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